叱らず罰せず、しつける方の成功事例
  
〜ありがとう、オオマがくれたチャンス〜
 

埼玉に住まう私の母(オオマ)と私と太郎吉(息子)とセシリア(娘)の4人で鎌倉の妹の所に行った時のことです。

今回の旅行を楽しみにしていた子ども達は、自分で貯めたお小遣いを持参して行きました。

太郎吉は、思い出に残る品を買おうと、この日のためにコツコツと貯めたお金が財布の中に十分ありました。

セシリアは、コツコツパッパ、コツコツパッパと貯めたわずかなお金がお財布の中にありました。

私は、途中、二人の子どもを、オオマと妹にお願いし、仕事で家を空けることになっていました。
 

さて、私は、四人を呼んで、出かける前に話をしました。

『では、皆さん、今から明日の晩までお願いします。

太郎吉とセシリアは、お母さんがいない間、オオマやおばさんに迷惑が掛からない様、考えながら生活してみ

てください。オオマ達は、子どもらが、お金を持ってきているので、食べる物以外は一切買い与えないで下さい。
お土産は、自分のお金で買います。

太郎吉は、十分なお金があるね。欲しいものが見つかるといいね。セシリアは、少しだけれど買える物がきっとあるよ。探してごらん。では、太郎吉、セシリアを頼んだよ。みんなの力になっておくれね。』

こうして、私は家を出ました。
 

そして、仕事を終えて帰ってみると、迎えてくれたのは、光り輝く笑顔のセシリアと少し大人げになった太郎吉でした。

『あなたたちが、しっかりお留守番してくれていたお陰で、お母さんは、とてもよい仕事が出来たよ。ありがとう。』とまずは抱きしめ感謝しました。しばらくして、ちょっぴり大人げになった太郎吉が、真剣な顔をして

『お母さんに伝えたい事があるから来て。』というのです。

それを見ていたセシリアが急に大声で泣き出しました。そして、激しく兄弟げんかが始まりました。

さては、何かあったのだな・・・?

オオマや妹は、『あなたがいない間はとっても仲良しでいい子たちだったのに、帰って来たとたんに大喧嘩する

なんて、どういう事なんだろうね〜。』と驚いていました。
 

私は、しばらく兄妹げんかを眺めていましたが、すっくと立ち上がり嫌がるセシリアを振り払って太郎吉だけを

別室に呼びました。(この時、怒りの感情があったわけではありません。)
 

『お母さんがいない間を守ってくれてありがとうね。太郎吉。』と言うと、

『うん。お母さんが、セシリアを頼むと言ったからぼくは、がんばったよ。』

『がんばってくれたんだね。お母さん嬉しいよ。』
『でも、セシリアはお金が足りないと知って、オオマに泣いて、ねだって、ぼくが選んだマリモと同じものを買わ

せたんだ。だから、ねだっちゃいけないって、注意したよ。』

『そう、注意してくれたのね。』

『オオマだって、お母さんから買ってあげないで、とあんなに言われていたのに、セシリアが泣いて欲しがるも

のだから、「では、オオマからのプレゼント!」と言って買ってしまったんだよ。それは、ルール違反だよ。

ぼくは、自分のお金で買ったのに、なんでセシリアばかり。ずるいよ。』

『そうだね。ずるいと思っているのね。』

『だいたい、いつもお母さんは、けんかするとぼくのせいにするけど、セシリアがけんかして泣くのに、だまされ

てるよ。』

『お母さんが、だまされてるの?

『ある時、けんかして泣いたセシリアをお母さんがかばって、こうすればお母さんは自分の味方になるってわか

ったから、いざと言うとすぐに泣くのさ。それをお母さんは解ってないんだ。』

『解ってないと思っていたのね。実は、お母さんも困っていたの。泣けばすむ訳ではないのにね。どうにかセシ

リアにその行動は、良くないっていうことを教えたいの。太郎吉、力になってくれる?

『うん。直るんだったらね。』

『それじゃあ、お母さんは、話をしてくるから、しばらく、静かに本でも読んでいてね。』


そこで、私は、オオマと話をしました。

『いろいろとありがとうね。太郎吉は、私との約束を実直に守ろうとしたのよ。』と私。

『太郎吉は、私が買って上げたことを怒っているんだろ。でも、セシリアが可愛そうになってね〜。』と、オオマ。

『そうね。可愛そうに思うよね。でも、ルールを守った太郎吉の気持ちも考えてあげてね。彼は必死に約束を守

らせようとしただけよ。』

『悪い事をしたね〜。』(淋しそうに)

『そうじゃないの。オオマには、悪者になってもらっちゃたけれど、今がしつけのチャンスなの。オオマ、チャンス

を作ってくれてありがとう。』(オオマには、買って上げたことを酷く後悔させてしまい申し訳ないことをしました。)


そして、次に私はセシリアの所に行き、『楽しかった?お母さんのいない間、ありがとうね。(心から)

太郎吉が何で怒っているか、わかってるよね?』と話しました。
すると、『これ・・・。』とマリモを差し出して、『わかっている・・・。』

『わかっているのね?では、どうしたらいいかな〜?』

『返しに行く。』

『お店屋さんに返しに行くのね?』

『夜だから閉まっているかな〜?明日の朝返す。』

『明日の朝は早くに帰るの。お店閉はまだ閉まっていると思うよ。』

『じゃあ・・・。あやまる。』

『あやまるの?誰に?

『おにいちゃん。』

『おにいちゃんに?

『それと、オオマ。』

『お兄ちゃんとオオマにね。何て言うの?』

『ねだってごめんね。約束やぶってごめんねって。』

『ごめんねって自分であやまるのね。許してもらえそう?

『うん、たぶん、だいじょうぶかな・・・。』

『失敗したらどうする?

『それでも、ごめんねって、わかってもらえるように言う。』

『そう、じゃあ、あやまりに行こうか。』

『うん!』(ニコニコ)
 

こうして、セシリアは、オオマに『ねだってごめんなさい。』と言い、太郎吉に『約束やぶってごめんね。』と謝ったのでした。そして、すでに怒りの治まった太郎吉は、優しくこう言いました。

『いいよ。でも、何でも泣けばすむって考えは間違ってるよ。あれは、小学校では通用しないんだ。
人生はあまいもんじゃないからね。』(さらりと言いました。)

『そうねぇ。お母さんもそう思うわ。次に泣いても、もうお母さんは乗らないからね。』

すると、セシリアは、『(テヘッ、ばれたか・・・という顔をして)、それもごめんなさい。もうやめる。』
と、明るい声で言いました。

そして、私は、『今度の事で、一生懸命に約束を守った、太郎吉は立派だったね。ごめんなさい。と、
素直に言えたセシリアは、勇気があったね。二人とも大きくなったね。』

と言いました。
 

それ以来、セシリアの泣きの演技は、ぴたりと止みました。泣きの手は、通用しないと悟ったのです。

あんなに家族を悩ましていたネガティブな習慣が、うその様に無くなったのです。

オオマには、淋しい思いをさせてしまって、悪かったけれど、叱ったり罰を与えなければならないような事をした

時こそ、しつけ時なのです。今回は、叱りもせず、罰も与えず、しつけとして成功したようです。

ただ、オオマの淋しそうな顔だけが、焼きついて離れません。

『ごめんね。オオマ。』そして、『ありがとう、オオマ。』

 

 

叱られることもなく、罰を受けることもなく、セシリアの泣き演技はどうして治まったのでしょうか。
この成功事例を心理学から考察してみます。

 

●なぜ、しつけにおいて、罰を与えてはいけないのでしょうか?

 

 罰を与える効果と副作用 R.Vasta 1999年の文献をわかりやすい表現で抜粋します)

 

 しつけにおいて罰を与える事は、望ましくない行動をやめさせる効果は確かにありますが、

同時に、思わぬ副作用が起きてしまう可能性があります。

 

 1.限度を超えての強い罰は、子どもの内面に攻撃性や、感情的な行動を起こさせる。

   (泣き叫び、かんしゃく、自傷行為など)
 
2.「罰を与える人」と「罰」が連合し、その人自体を避けるようになる。
 3.親からよく罰を与えられる子は、親をモデルに攻撃的な行動をまねるようになる。
 4.罰は、よくない行動だけではなく、問題のない行動まで、行わせなくしてしまう。
 5.罰は、一時的な効果があるので、親は罰に頼ってしつけるようになる。罰は癖になる性質を持つ。
 6.罰は、与えるタイミングや程度が重要である。お互いに連帯感をもつ親子関係が十分に形成されてい

   るか?
 7.罰を与えるのなら、子どもが悪い事をしたことのみを教えるのではなく、その代わり何をすべきかを

   同時に教える必要がある。
  
 
確かに罰は、即効性があり、緊急の場合に有効でもあるし、真剣さ重大さが伝わりますが、繰り返し、

 与えてばかりでは、 その効果も期待できないでしょう。しかも、多くの副作用が生じる可能性が認めら

 れている以上、むやみやたらと使えるものではないと考えます。

 

 ●叱らず罰せずしつける方

  では、具体的に太郎吉とセシリアの今回の事例について分析してみます。

  1.私は、しばらく兄妹げんかを眺めていましたが〜』
 
親は、基本的に子どもの喧嘩には割って入らない。喧嘩が始まると席を外すようにしその場を去る。
 重大な危険を伴わない限り、子どもの力で解決させるようにしています。
まずは、私は冷静に彼らを

    見ていました。

  

  2.すっくと立ち上がり〜太郎吉だけを別室に呼びました。』
 オオマという第三者が加わることで、子どもたちが各々の役割を明確に表し始めた(演じ始めた)

    ところをチャンスと捕らえ、アクションを起こしてみることにしました。誰もいないところで一人づつ話し

    をしました。

  

  3.『お母さんがいない間を守ってくれてありがとう〜』 『うん。〜ぼくは、がんばったよ。』 

    『〜お母さん嬉しいよ。』
 
視線の高さを同じにし、相手を尊重し話をしました。

  

  4.『〜だから、ねだっちゃいけないって、注意したよ。』 『そう、注意してくれたのね。』

    『〜ぼくは自分のお金で買ったのに、なんでセシリアばかり。ずるいよ。』

    『そうだね。ずるいと思っているのね。』

 
オオマは、無条件に孫が可愛いいという弱みを持っていました。
 太郎吉は、家族の中で、いつも不公平だ、『まじめな僕がバカを見る』と不満を感じていて、ついに

    爆発しました。
 

    この時、ペーシング(相手の波にあわせて返す)、ミラーリング(気付かれないように相手と同じ動作

    をする)、反映的に返す(言葉をそのまま反射して返す)などを気をつけて使いました。

    さらに相手の否定的な感情に反応しないようにし、自分の感情の安定を図りました。

  

  5.『〜こうすればお母さんは自分の味方になるってわかったから、いざと言うとすぐに泣くのさ。
 それをお母さんは解ってないんだ。』

    『解ってないと思っていたのね。実は、お母さんも困っていたの。〜』

    セシリアには、『泣けば済む』という悪しき行動習慣があり、日頃から家族もほとほと困っていました。

    今回の兄妹喧嘩の場でも、彼女は、それを強く表していました。

  

  6.『〜どうにかセシリアにその行動は、良くないっていうことを教えたいの。太郎吉、力になってくれる?』 

    『うん。直るんだったらね。』
 

    (セシリアに)『わかっているのね?では、どうしたらいいかな〜?』

    『返しに行く。』
 

    彼らになるべく意見を出させ「では、どうしたらいい?」と考えさせ、行動を選択させ、その責任は

    子どもの物とする立場で話し合いました。太郎吉は、セシリアの行動を正すために力になってくれる

    と選択し、セシリアは、許してもらえるように謝ることを選択しました。
 

 

  子ども達の反応

    ・子ども達は傾聴してもらえると安心してか、心を開いて多くのことを語ってくれました。

    ・最初は、感情的に話してましたが、次第に落ち着きを取り戻し、自分の心を見つめながら話してく

     れました。

    ・母親は裁判官でも検察官でもない、と言う事に気付いてくれた子ども達は、他者を攻めることを止

     め、自分はどうしたらいいかという事を考え出しました。

  

  結 果

    このように、叱らずに、罰を与えずに、子どもの問題行動を正す事は出来ます。

    それには、親は忍耐と介入するタイミングと安定した感情、さらに改善のための惜しみない協力が

    必要です。

    罰を与えずにしつけたいと思う方は、一度失敗してもあきらめずに、日頃から下のことに注意してな

    んども試してみてください。

 

 ●「叱らず罰せずしつける方」で気をつけること

   1.子どもを尊重しましょう。

   2.子どもを勇気づける言葉掛けをしましょう。

   3.子どもに選択してもらいましょう。

   4.子どもが喜ぶ魔法の言葉『愛しているよ、大好きだよ、宝物だよ、生まれてきてくれて愛がとう』を

     心を込めて言いましょう。

   5.自分自身が安定した感情でいられる様に「HALT」に気を付けましょう。

       H・・・hungry 空腹

       A・・・anger  怒り

       L・・・lonely  孤独

       T・・・tired  疲れ